備え付けのエアコンが臭う。自分で業者を呼んでいいのか、費用は誰が持つのか——賃貸だと途端に判断がつかなくなります。
調べてみると、国土交通省のガイドラインは「エアコンの内部洗浄」を項目名で名指しして、貸主負担が妥当としていました(喫煙等の臭いが付着していない場合)。ただし契約書の特約次第で結論は変わります。この記事では原典の記述を確認したうえで、実務としてどう動けばいいかを整理します。
| 状況 | 動き方 |
|---|---|
| 入居中に臭いが気になる | まず管理会社へ連絡。原則は貸主負担(ガイドライン) |
| 入居した時点で汚れていた | すぐ連絡。写真を残す |
| 自分の希望で早くきれいにしたい | 許可を得たうえで自費という形もある |
| 退去時に請求された | 契約書の特約を確認。要件を満たさない特約は争える |
原則は「経年変化と通常損耗は貸主負担」

まず制度の話から確認します。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、原状回復の基本的な考え方を「賃借人が通常の使用方法により使用していた状態で、借りていた部屋をそのまま賃貸人に返せばよい」としています。
そのうえで費用負担について、「汚損や損耗が経年変化による自然的なものや通常使用によるものだけであれば、特約が有効である場合を除き、賃借人がそのような費用を負担することにはなりません」と述べています。
- 普通に使っていて汚れた分は、原則として借主の負担ではない
- ただし「特約が有効である場合を除き」という条件が付いている
- つまり契約書の内容次第で結論が変わる
「経年変化だから貸主負担」で話が終わるわけではないという点が、実務では効いてきます。ただしエアコンについては、ガイドラインがもっと踏み込んだ記述をしています。
ガイドラインは「エアコンの内部洗浄」を名指ししている
ガイドライン本体の別表1は、損耗・毀損の事例を部位別に区分しています。その【設備、その他】の欄に、項目名として「エアコンの内部洗浄」が挙がっています。
「喫煙等による臭い等が付着していない限り、通常の生活において必ず行うとまでは言い切れず、賃借人の管理の範囲を超えているので、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。」
(原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 再改訂版・別表1)
さらに同じガイドラインに収録された賃貸住宅標準契約書の別表第5「賃貸人・賃借人の修繕分担表」でも、「賃貸人の負担となるもの」の【設備、その他】に「エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いなどが付着していない場合)」が挙げられています。
つまりタバコを吸っていなければ、原則は貸主負担というのが国の示す考え方です。理由も明快で、「賃借人の管理の範囲を超えている」——普通に住んでいる人が内部洗浄まで行うことは想定されていない、ということになります。
ただし前述のとおり「特約が有効である場合を除き」という条件が付きます。契約書に何が書かれているかを次に見ていきます。
クリーニング特約が有効になる3つの要件
では特約なら何でも通るのかというと、そうではありません。ガイドラインのQ&Aは、賃借人に不利な特約が有効となる要件を3つ挙げています。
「[1]特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること [2]賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること [3]賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること」
さらにクリーニング特約については、より具体的な判断基準が示されています。
「クリーニング特約については[1]賃借人が負担すべき内容・範囲が示されているか、[2]本来賃借人負担とならない通常損耗分についても負担させるという趣旨及び負担することになる通常損耗の具体的範囲が明記されているか或いは口頭で説明されているか、[3]費用として妥当か等の点から有効・無効が判断されます」
読み解くと、「クリーニング代は借主負担」とだけ書かれた特約は、要件を満たしていない可能性があります。金額も範囲も示されていなければ、少なくとも[1]が欠けます。[2]は「或いは口頭で説明されているか」とあるので書面だけでは判断できませんが、実際に説明を受けていなければここも問題になります。
実際に判断が分かれた裁判例が2つ挙がっている
Q16は判例も示しています。ここを読むと、どこで結論が分かれるかがはっきりします。
「『ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する』旨の特約は、一般的な原状回復義務について定めたものであり、通常損耗等についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものとは言えない」と判断(東京地方裁判所判決 平成21年1月16日)
一方、契約終了時の汚損の有無にかかわらず「専門業者による清掃を実施し、その費用として2万5000円」を負担する特約が明確に合意されていたとして、有効と認められた例もあります(東京地方裁判所判決 平成21年9月18日)。
ガイドラインはこの判断の理由として、契約時に特約の内容が説明されていたこと、金額が月額賃料の半額以下であること、専門業者による清掃費用として相応な範囲であることを挙げています。
分かれ目は「金額まで書かれ、説明も受けているか」です。金額が明示され妥当な範囲なら、争っても通らない可能性が高いです。逆に一文だけの特約は、通常損耗まで負担させる合意とは認められないことがあります。
退去時に請求されて納得がいかない場合、この判断基準がものさしになります。契約書を開いて、範囲と金額が具体的に書かれているかを確認してください。
入居中に頼みたいときの順序
ここからは実務の話です。臭いが気になるからといって、自分で業者を呼ぶのは避けたいところです。
理由は単純で、備え付けのエアコンは自分の持ち物ではないからです。勝手に分解洗浄を手配して、その作業が原因で壊れた場合、責任の所在が一気にややこしくなります。
- 1. 管理会社(または貸主)に連絡する……症状といつからかを伝える
- 2. 費用の負担者を確認する……貸主手配か、自費か、折半か
- 3. 手配の主体を確認する……先方が呼ぶのか、自分で呼んでいいのか
- 4. 実施する……ここで初めて業者に連絡
この順序を守れば、費用でも責任でももめにくくなります。逆に4から始めると、自費になったうえに故障時の責任まで負う可能性があります。
連絡すると何が起きるか
ケースはいくつかに分かれます。貸主が費用を持って手配してくれることもあれば、「自費なら構いません」となることもあります。
後者でも、許可を得ておくこと自体に価値があります。万一の故障時に「勝手にやった」と言われずに済むからです。故障したときの補償の考え方は別記事にまとめました。
入居時から汚れていた場合
これは分けて考えます。自分が使う前から汚れていたなら、通常使用による損耗ではありません。
やるべきことは1つで、気づいた時点で連絡し、記録を残すことです。
- 入居直後に運転して、臭いの有無を確認する
- 吹き出し口を照らして、内部の汚れを写真に撮る
- 管理会社へ連絡し、やり取りを文面で残す
時間が経つほど「入居後に汚れた」との区別がつかなくなります。退去時の請求を避けるためにも、最初の記録が効いてきます。
とはいえ、自分は引っ越しを4回してきて、入居直後にエアコンの中まで覗いたことは一度もありません。荷ほどきで手一杯で、そこまで気が回らないんですよね。写真を1枚撮るだけなら1分もかからないので、次の引っ越しではやろうと思っています。
内部を覗いて汚れを確認する方法は別記事にまとめました。
退去時に請求されたら
いちばん揉めやすいのがここです。まず契約書の特約を確認します。
前述のQ16の判断基準に照らして、負担する範囲と金額が具体的に示されているかを見ます。示されていない場合、その特約が有効かどうかは争う余地があります。
自分が契約書の特約を読み返したのは、いつも退去の精算書が届いてからでした。入居時にざっと目を通しただけで、金額まで書いてあったかどうかの記憶が残っていません。本当は入居のときに、この部分だけ写真を撮っておくのが正解だと思います。
- 特約に金額が書かれているか……「実費」だけでは範囲が不明確(Q16の[1])
- 説明を受けた記憶があるか……Q16の[2]は口頭説明でも足りるとされている
- 金額が相場と比べて妥当か……Q16の[3]「費用として妥当か」。判例では月額賃料の半額以下が妥当性の根拠に挙げられた
3つ目の判断には、実際の相場を知っておく必要があります。壁掛けタイプのクリーニングはおそうじ革命で9,980円、おそうじ本舗で14,300円といった水準です(2026年8月1日に12,100円から改定されました)。各社の実額は別記事で比較しました。請求額が相場から大きく離れていれば、そこは指摘できます。
話がつかない場合は、消費者ホットライン「188」で最寄りの消費生活センターに相談できます。ガイドラインはトラブルの迅速な解決にかかる制度として少額訴訟手続や裁判外紛争処理制度(調停・仲裁)も挙げており、原状回復の争いはこうした制度の想定範囲に入ります。
なお自宅で事業を営んでいる場合、費用を経費にできるかという別の論点が出てきます。その整理は別記事にまとめました。
自費で頼む場合の注意
許可を得て自分で頼む場合も、賃貸ならではの確認事項があります。
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| エアコンの製造年 | 賃貸の備え付けは古いことが多い。年数で断られる場合がある |
| 水道・浴室を使う許可 | パーツの洗浄に使う。集合住宅では確認しておきたい |
| 駐車スペース | 来客用の扱いを管理会社に確認 |
| 補償の条件 | 自分の持ち物ではないので、壊れたときの影響が大きい |
1つ目は特に効いてきます。賃貸の備え付けエアコンは、入居者が思っているより古いことがあります。年数の線引きは会社によって違い、断られることもあります。
参考までに、ガイドラインは原状回復の負担割合を計算するときのエアコンの耐用年数を6年としています(冷房用・暖房用機器として)。設備としての価値は6年で大きく下がる前提だということです。
当日の準備と水回りの使用については別記事にまとめました。
よくある質問
管理会社に「自分でやってください」と言われた場合はどうすればいいですか?
その回答自体が記録になります。やり取りをメールなど文面で残しておいてください。自費で手配することになりますが、許可を得た事実が残っていれば、故障時や退去時のやり取りで立場が変わります。
なお国交省のガイドラインは、エアコンの内部洗浄について、喫煙等による臭いが付着していない限り賃貸人の負担とすることが妥当と考えられる、としています(全文は上の別表1のとおり)。タバコを吸っていないなら、この記述を示して相談する余地はあります。
契約書に「エアコンクリーニング代は借主負担」とあります。払うしかないですか?
一概には言えません。ガイドラインが挙げる裁判例では、「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」旨の特約について、通常損耗まで負担させる合意とは言えないと判断されたもの(東京地裁 平成21年1月16日)があります。一方で金額(2万5000円)まで明示され説明も受けていた特約は有効とされました(同 平成21年9月18日)。金額も範囲も書かれていない一文だけなら争う余地がありますが、金額が明示され妥当なら通らない可能性が高いです。争う場合は消費生活センターに相談してください。
入居中に自費でクリーニングしたら、退去時の請求は減りますか?
自動的に減るとは限りません。退去時のクリーニング特約は「退去時に実施する」という約定であることが多く、入居中に自分で洗ったこととは別扱いになりえます。減額を期待するなら、事前に管理会社へ確認しておくべきです。領収書と作業報告書は保管しておいてください。
ワンルームで作業中の居場所がない場合はどうすればいいですか?
留守にできる場合が多いので問題になりにくいですが、作業開始前と終了後の確認には立ち会いが必要です。作業時間は壁掛けで数時間かかるため、その間の予定を入れておくのも一つの方法です。詳しくは別記事にまとめました。
まとめ
- ガイドラインは「エアコンの内部洗浄」を名指しで貸主負担が妥当としている(喫煙等の臭いが付着していない場合)
- 理由は「賃借人の管理の範囲を超えている」から。ただし「特約が有効である場合を除き」という条件付き
- 特約が有効になるには3要件(合理的理由・借主の認識・意思表示)が必要
- クリーニング特約は範囲・通常損耗分の明記・費用の妥当性から有効性が判断される
- 分かれ目は「金額まで書かれ、説明も受けているか」。一文だけの特約は無効とされた判例、金額明示の特約は有効とされた判例が両方ある
- 入居中は手配より先に管理会社へ連絡。順序を逆にすると自己負担になりやすい
- 入居時から汚れていたならすぐ連絡して写真を残す。時間が経つと区別がつかなくなる














