エアコンのルーバーを開けて奥を覗くと、円筒形の部品に黒い点がびっしり付いている。これが送風ファンで、カビ臭さと黒い粒の発生源だ。「業者に頼むと高いから自分で」と考える人は多い。結論を先に書くと、掃除機で手前のホコリを吸うところまでは自分でできるが、羽根に固着したカビは取れない。洗浄はメーカーが利用者の作業として想定していない領域になる。ただ「だから業者へ」で終わっても費用の問題は解決しないので、この記事では自分でできる範囲を示したうえで、費用を抑える選択肢まで並べた。
自分でやれるのは「手前のホコリを吸う」まで

液体を使わない乾式の作業に限れば、自分でできることがひとつある。掃除機で吹き出し口の手前に溜まったホコリを吸うことだ。効果は限定的だが、リスクは小さい。
- 電源プラグを抜く……リモコンでの停止では通電が続く
- マスク・手袋を着け、窓を開ける……カビを至近距離で扱う作業になる
- 安定した脚立に乗る……無理な姿勢になるようなら中止してよい
- ノズルは押し当てず、近づけるだけ……先端で羽根を突くと変形の原因になる
羽根に固着したカビは吸引では剥がれない。カビ臭さや黒い粒が出ている段階なら、この作業では解決しない。「奥まで手を入れないと届かない」と感じた時点で、それはもう自分の作業範囲ではないと判断してほしい。
なお、本体側のホコリは吸ってよいが、床に落ちた黒い粒を掃除機で吸うのは避けたい。塊になったカビは排気で舞い上がる可能性があるので、床のものは濡らした紙で拭き取って捨てる。落ちている粒の正体の見分け方は別記事にまとめた。
なぜファンは自分で洗えないのか
吹き出し口から見える細い羽根が並んだ円筒形の部品を、エアコンクリーニングの現場では「シロッコファン」と呼ぶことが多い。ただしシロッコファンはレンジフードなどに使われる別形式の送風機で、壁掛けエアコンに入っているのはクロスフローファン(貫流ファン)という部品だ。ダイキンの解説ページでも、室内機はフィルター・熱交換器・クロスフローファンの構成として説明されている。「中のローラー」「タービン」「ロール」と表現されることもあるが、指しているものは同じである。
この部品がカビの温床になりやすいのは、空気の流れでいえば熱交換器の風下にあたり、結露で湿った空気がそのまま当たる位置にあるからだ。そこへホコリが吸い寄せられ、羽根が細かく入り組んでいるために、いったん付着した汚れは風では飛ばない。
そして羽根と羽根の間隔は狭く、布を当てて往復させるスペースがない。指も入らない。つまり拭き掃除という手段そのものが使えない。洗うには洗浄液で汚れを浮かせて水で流すしかなく、それを室内でやるのが難しいというのが本質的な問題になる。
ダイキンは市販や自作のほこり取り棒を使った内部のお手入れについて、ケガのおそれやファンが破損するおそれがあるとして控えるよう案内している。どこまでが利用者の作業範囲かは、部位ごとに別記事で整理した。
よくある自己流と、その問題点
| よく見かける方法 | 起こりうること |
|---|---|
| アルカリ電解水を大量に吹き付ける | 汚れは浮くがすすげないため、溶けた汚れがドレンパンへ流れて溜まることがある。量が多いと電装部へ回り込むおそれもある。NITEは、誤った内部洗浄による火災事故を報告している |
| 棒やブラシを差し込む/手で回しながら洗う | 羽根が変形・破損することがある。前者はダイキンが名指しで控えるよう案内している方法 |
| 市販のエアコン掃除グッズを使う | 届くのは吹き出し口の手前まで。ファンの奥や上半分には物理的に到達しない |
市販グッズの選び方と、買ってよいもの・避けるべきものは別記事に整理した。
洗剤ごとの液性と、どこまで使ってよいかはこちらで判定した。
「アルカリ電解水なら家電にも安全」と言われることがあるが、エアコン内部で問題になるのは洗剤の種類ではない。液体が電装部にかかることと洗い流せないこと——この2点はどんな液体を使っても変わらない。電装部に液体がかかると何が起きるのかは別記事にまとめた。
費用を抑えたい場合の選択肢
自分で洗えないとなると、次に知りたいのは安く済ませる方法のはずだ。手段ごとに費用と条件を並べると判断しやすくなる。
| 手段 | 費用の目安 | 成立条件・限界 |
|---|---|---|
| 掃除機で手前のホコリを吸う | 0円 | 取れるのは表面のホコリだけ。固着したカビは落ちない |
| 賃貸なら管理会社に相談 | 0円の可能性 | 設備の不具合と判断されれば貸主負担になることがある。自己判断で手配する前に連絡する |
| マッチング型の業者に頼む | 8,000〜10,000円 | くらしのマーケットの相場。料金も作業内容も事業者ごとに異なる |
| 複数台をまとめて依頼する | 12,100円 → 11,000円 | おそうじ本舗の場合、2台以上で1台あたり1,100円引き(2026年8月1日から2,200円引きに拡大)。同時依頼が条件 |
| 時期をずらす | 数千円の差 | 需要が集中する時期は割引が出にくい。急ぎでない場合に限る |
費用を最優先するなら、まず賃貸かどうかを確認し、次にマッチング型の相場を見て、複数台あるならまとめて頼む——という順で検討するのが無駄がない。安い時期については別記事で整理した。
なお、高圧洗浄機を買って自分で洗うという選択肢もあるが、洗浄機だけでは足りない。専用の養生カバー、汚水を受ける設備、排水を処理する場所が要る。機材一式の初期費用を業者1回分の料金と比べたうえで判断したい。業者ごとの実額と、追加料金が発生しやすい条件は別記事で比較した。
プロの分解洗浄は何が違うのか
業者に頼むと1台1万円前後からかかるが、その内訳は技術料だけではない。自分でやる場合との差は、主に次の3つにある。
- 養生……本体の周囲を専用のカバーで包み、洗浄液と汚水を1か所に集めて回収する。壁・床・家具を濡らさずに大量の水を使えるのはこの仕組みがあるから
- 電装部の保護……基板や配線をあらかじめ養生する。どこに何があるかを把握したうえで作業する
- すすぎ……洗浄液を高圧の水で完全に洗い流す。DIYで最も再現しにくい工程がこれで、汚れを「浮かせる」までは家庭でもできるが「流し切る」ができない
なお業者のメニューにも、通常の分解洗浄と、部品を外して洗う完全分解洗浄がある。ファンの汚れがひどい場合はどちらを選ぶべきかが変わってくる。
よくある質問
ファンだけ取り外して洗うことはできる?
構造上は取り外せる機種もあるが、モーターとの連結や電装部の取り回しに触れることになる。取扱説明書に手順の記載がない作業であり、組み付けを誤れば異音・振動・水漏れにつながる。業者が完全分解洗浄というメニューを別料金で用意しているのは、この工程に手間とリスクがあるためだ。
掃除機で吸ったあと、どのくらいで汚れが戻る?
吸えるのは表面のホコリだけなので、内部にカビが残っていれば見た目はすぐ元に戻る。逆に、吸っても黒い点が目立つままなら、汚れがホコリではなくカビとして定着している状態だと判断できる。
ファンが汚れたまま使い続けるとどうなる?
カビの胞子を含んだ風が出続ける。羽根に汚れが厚く付けば風量も落ちるため、設定温度に達しにくくなる。放置して改善する要素はないので、どこかの時点で洗浄が必要になる。急ぐべきかどうかの判断は別記事にまとめた。
まとめ
- 自分でできるのは掃除機で手前のホコリを吸うまで。固着したカビは取れない
- 床に落ちた黒い粒は掃除機で吸わず、濡らした紙で拭き取る
- 室内機の送風ファンはクロスフローファン。現場ではシロッコファンとも呼ばれるが厳密には別形式
- 羽根の間隔が狭く、拭き掃除という手段自体が使えない
- アルカリ電解水でも解決しない。争点は「電装部にかかる」「洗い流せない」の2点
- 費用を抑えるなら、賃貸かどうかの確認→マッチング型の相場→複数台まとめ、の順で検討する
















